一旦八百屋に帰り、仕事を済ませた小太を連れ、夕刻になってから千之助は妖幻堂に帰った。

「あっ。目ぇ覚めたのかい。どうだい、気分は。起きてて大丈夫なのかい?」

 妖幻堂に入るなり、小菊の姿を見つけ、小太は嬉しそうに駆け寄った。

「小太さん! 無事だったんですね。ご免なさい、あたしのために、酷い目に」

 小菊も小太に駆け寄る。
 ここだけ見れば、いかにも上手くいきそうな流れだが。

「何、大したことないよ。あ、これ、お土産。食べられるかな」

 いそいそと、買ってきた団子の包みを渡す小太の後ろから、いつの間にやら人型に戻った狐姫が、ばこんと頭を叩く。

「いつまでも入り口に突っ立ってんじゃないよ。ほら、とっとと上がるなら上がりな。あちきは小菊に用事があるんだ」

 そう言って、大事そうに抱えていた包みを小菊に手渡す。

「これで稲荷、作っておくれ。清水の油揚げは、他と違って美味いんだよぅ。よっく味見して作っておくれね。あんたは上手だから、楽しみだ」

「太夫っ! 小菊は病み上がりなんじゃないのか? そんな雑用、押しつけないでやっておくれよ!」

 小菊を気遣う小太に、狐姫はぎろりと鋭い目を向ける。
 それだけで、小太はびくんと震え上がった。