たかが一瞬のこと。

俺には、永遠のように感じた…。

「いっ…や……いやぁぁぁー!!!!」

母上の叫びすら、遠く感じる。

俺の目に、映るのは。

左肩から鮮血がとめどなく流れていて。

真っ白の着物を紅く染めている…

認めたくはない、凜の姿だけだった…。

はっと我にかえった。

「母上!凜姫様!?」

慌てて二人のもとへ駆け寄る。

「…らん…お菊さんを…あんぜんな、場所へ…」

なんでお前は、こんなときまで他人のことなんだよ。

「しっかりして下さい!…出血がひどいです。今すぐ応急措置を…!」

「ばか…その前に、やることがあるだろ…。あたしは、まだやれる」

…何が、やれるんだよ。

もう戦えないだろうが。

「……母上は、逃げてください。今すぐ、父上のところへ」

母上はこくこくと頷いて、山賊がいるほうと逆方向へ逃げていった。

「…もう終わりか?」

「あっけねぇな、姫さんもそんなもんか」

げらげら笑う、耳障りな声。

俺の中で、ふつふつと怒りがこみ上げる。

…一回、地獄に堕ちてみるか…?

本気で殺そうとしたとき。

「そこまでたっ!」

殿の声が聞こえた。

「貴様ら…よくも凜を…!…やれっ」

「御意っ」

そっか、殿が来てくださったんだ…。

よかった、これで凜の傷の手当てができる。

「凜姫様、殿も来てくださったようですし…。肩を」

「…ん…」

やっぱり相当痛いのか、凜は素直に俺のされるがままになっていた。