しばらくすると、智恵子が起きた。
「ち~。大変だったね。」と言うと「大丈夫」と智恵子は言う。
いつも、智恵子は「大丈夫」と言う。
もっと、甘えろよと思う。

智恵子が眠っている間に、僕の家の御用達で、口の堅い医者に連絡を取っていた。

この医者は、僕の従兄だった。
話を聞くと「起きたら、タクシーで来い。」
「裏を開けておく」と言って電話を切った。

葛城 春信。
いずれは、僕の家の会社に入る人間だ。
春兄の家は、代々葛城の裏の仕事を担ってきた。
いずれ、春兄も僕の右腕になる。
だから、春兄なら、智恵子の怪我も任せられる。

春兄の病院に着いた。
春兄が言っていたように、裏口から入る。

そして、春兄の部屋をノックすると、「どうぞ。」という春兄の声がした。

春兄は、「とりあえず、座れば?」と僕と智恵子に椅子を勧めた。

智恵子を見て、「診察したいけど、いい?」と聞いた。
「やっぱり、診察必要ですか?」と智恵子は聞いた。
「うん。診察した方が、智恵子ちゃんも、安心だと思う。」と春兄は言った。

春兄の<安心>という言葉が、心を揺り動かしたのか智恵子は、診察することに同意した。