…もう少し…このままで…

と二人の思いが重なった時、台所の入り口から

「ゲホンッ」とわざとらしい咳払いが聞こえてきた

振り返るとそこにはバツが悪そうに視線を逸らした父が立っていた

…あっ…ここは実家…
しかも台所だ…

遥もハッと我に返り、抱きしめていた腕をゆっくりと離した

「あの…初めまして
笹原 遥といいます
小夜さんと…お付き合いをしています」

父と向き合い、遥はピンと背筋を伸ばして礼儀正しく頭を下げた

紹介もしていない実家で、しかも父親にこんな場面を目撃され、時計の針を巻き戻したくなった

きっと遥も今すぐにでも逃げ出したいに違いない…