部屋のドアがノックされる音で目が覚めた

…あっ…眠ってた…
今何時？

ベッドサイドの時計に目をやると部屋の中が薄暗くなっていることに気づいた

再びコンコンとノックが聞こえ、小夜は急いでドアへ近づく

「はい…」

こんなときにフランス語で何と言うかなど分かるはずもなくそう答えた

「さあや…僕だ…」

愛しい人の声がドア越しに聞こえ小夜の鼓動を速める

寝起きの髪を気にしながらドアを開けた

遥の顔が見えると同時にその胸に抱きしめられていた

「ごめん…本当にごめん！
一人にして…」

小夜のうなじに顔を埋めて、振り絞るように囁いた

遥が帰ってきたら聞きたいことがたくさんあったはずだが、今はもうどうでもよく思えた

「お帰りなさい！
疲れたんでしょ？
シャワーでも浴びて…
あっ！夕飯は？まだなら…あたし何か買ってくるよ！」

遥が口を開けば何か恐ろしいことを言われるかもしれないと、小夜は一気に捲し立てた

そう…遥から香る薔薇の香りを振り払うかのように…