胸をかきむしりたくなるほどの憤りを感じても、心底自分の生みの親を嫌うことなどできないようにできているのが人間というもので・・・。
それをわかっていても、自分の人生を狂わせていると感じている、親に反抗心を抱かざるを得なかった。
しかし俺には、そんな怒りのはけ口が元からなかった。
反抗期と呼ばれるものを持って親にも誰にも怒りをぶつけることも出来ず、どうしようもない寂しい気持ちが自分の中で渦巻くだけ・・・。
そしてそんな出口のない気持ち、空しさだけが心を支配していくなんて、自分でも知らなかった。

そしていつか
憎しみも、虚しさも
憧憬も嫉みも
今はすべて感じないようにうまく生きていくことを覚えた。
というより、肩の力が抜けただけなのかもしれないが。

青年は白いドアを閉め、鍵をかけた。
特に持ち物はない。タバコの箱をポケットへしまいなおし、サングラスをかけるだけ。
タバコを不機嫌そうにくわえたまま、半開きになっているドアのポストを蹴飛ばした。

「白いドアなんて不吉だ。真っ赤に染めてやりたい・・。」

深くため息を落とし、煙を吐き出して空を仰いだ。
曇った空は、その灰色の膜で太陽を隠していた。
路地だらけの住宅街。
迷路のような壁の高い建物に囲まれる行き止まりに、彼の家はあった。

朝日以外は入らない家を、彼は選んでいた。