「天才しか知りえない悩み・・・というのかな。自分の特性のせいで、普通の・・・典型的な私たち凡人とは違う枠の中にいるような気がする。」


社長はグラスを傾けながら言った。


「評価され、称えられ、褒められ、常に羨む声が自分を包んでいる。
そういう日々を繰り返しているうちに、自分が望んだわけでもないものに、縛られているような気がしてくるんだ。
・・・それは凡人が気づかぬうちに犯している、差別のせい。」


まるでシュラと父の気持ちにシンクロするかのように、おじ様は目を細めて悲しく言った。


それは、シュラと父の悲しい目とよく似ていた。


「そうしてゆくうちに、自分自身という存在は周りの人間に定義付けられ・・・自分が飲まれてゆく。
すると、不意に自分というものがわからなくなる。
そして自分を見つめなおしても、そこには何もないのだ。」


アリスは他人の中でもてはやされ、寂しい瞳をしていた彼らを思った。


「そう・・・まるで何も入っていない空っぽのグラスのように。」


潤うことなく、乾いてゆく気持ち・・・。

むなしさだけが、心を支配して行くようだ。


彼らは確かに、平均的な人間とは違う才能を持っているだろう。

そうして自分の存在を築いてきた。

だがそのせいで他人から過大評価され、そうでなくても、誰にもできないことができればもうそれで特別な存在になってしまうだろう。

彼らはそうして、知らない間に普通のことからかけ離れて行ってしまう。

自分が意識しない間に、もう自分は蚊帳の外。

もう素直に人に褒められることも、何もかもがむなしいことのように感じるようになってしまう。