彼の部屋の片付けを手伝いながら、悟はいつもの調子で答えた。


「別に。お前が決めたことならしょうがないよなぁって・・・。」


「・・・」


そう言うと、彼は私のほうを向いたまましばらく黙っていた。



窓から穏やかな風が流れてくる。

そして大きな病室全体に新鮮な空気を運んだ。

風に揺られるカーテンをボーっと見つめて話していた社長に、アリスは問いかけた。


「父は、何のために音楽をやっていたんでしょう・・・。」


「何のため、か・・・」


色んなことを勉強していた父、それは幼い頃から私も知っていた。

父が話す色んなことを毎日聞くのが楽しかった。

だけど、自分の過去のことや、自分の軌跡のことなどはあまり話さなかった。


「そうだね・・・。人は皆何かのために努力していたりするんだけどね。」


社長はそう言って空のグラスを見つめた。


「彼は、常に満たされない日々を送っていたのかもしれない。
何をしても少しの努力とひらめきですべてできてしまうのが彼の特性。
もちろん自分自身が他の人間と隔たりがあるのかもしれないということは感じていただろう。
何故か自分だけがいつも特別扱いされてしまう、うらやましく思われる。
それは自分が何でもできてしまうからだ・・・なんてね・・・。それはとても・・・」


社長は水が注がれていたグラスを手に取る。


「とても、空しかっただろうね・・・」


アリスは少し考えるようにうつむいた。


「シュラもそうだ・・・。」


アリスは自分の名を呼ばれたような感覚で顔を上げた。