「いや、将来は音楽関係の仕事に就くと思ってらっしゃるんじゃ・・・」


「さあな、最近はろくに会話もしていないから、わからない。」


クラウド家の自宅は広く、加えて彼の両親は仕事が忙しく、私でさえ会う回数は数えるくらいしかなかった。


だが、それでなくとも、私は彼と両親の間に溝があるのではと感じていた。


「いいのか・・・?」


「・・・。」


そして両親のことになると、彼も何も話さなくなってしまうのだ。



アリスは昔のことを思い出してみた。


「私は父から両親は早くに亡くなったと聞いていましたけど・・・。母方の両親も早くに亡くなられていたので、私には祖父母がいませんでした。」


悟は分厚い本を片付けて、そばにあった水を飲んだ。


「ああ・・・後から聞いた話だが、彼は養子だったんだ。」


「え・・・。」


「つまり、クラウド家の夫婦は彼の才能を買って養子に入れたのだろう。彼の本当の両親は本当に早くに亡くなってしまっていたんだろうね。」


「そうだったんだ・・・。」


アリスは無邪気に父の両親のことを尋ねたときもあった気がしたが、どの記憶でも父がまともに答えを返してくれたことはない。



「それ以上のことは私も知らない。詳しく聞かなかったんだが、聞いても話してはくれなかったかもしれないね。」


どこか影を感じていた父の雰囲気は、幼い頃の何かのせいだったのだろうか。


「だけどまぁ、変わったところもある彼だったが、私にとってはかけがえのない友人だった。」


どんなことでも彼に聞けばわかってしまうし、私が大学時代で勉強に困ったことは一度もなかった。


それに彼は語学も堪能だったおかげで、私がまだ英語に慣れないときは普通に日本語で会話してくれた。


そしてどんな分野でもスーパーヒーローだった彼は、男女問わず人気があった。