鏡の奥で青空に栄える純白のカーテン。
音はなく静寂の中で自分はたたずんでいる。

鏡の中の青年は少し微笑み、ジャケットのボタンを一つだけとめて、家を出た。

孤児院を一人飛び出した俺は、有名で迷惑な父の名を捨て、母の苗字を名乗って生きることにした。
そして皮肉にも父の才能を継いでいたので、作曲者として仕事をしていくことにした。
最初は右も左もわからない状態だったが、父の知り合いで俺の状況を理解してくれた音楽事務所関係者が、俺の身分を内密に働かせてくれた。
結果としてなんとか一人でも食いつなげることができ、住む家も確保してましな暮らしができるようになっていった。

俺が作る曲は高評価で、実年齢を伏せていたもののさすがに異常な能力の高さを不審に思う者もいたらしい。

檻の中のような孤児院を抜け出して、自分ひとりで生きていくんだといきがったところで、結局自分を生かしているのはかつて「生ける神話」とまで言われた父親の能力が故。
いくら自分のオリジナルな曲を作ろうとしても、やはり父の曲が頭によぎる。
自分までもが父の生き写しであるなどとは思いたくないが、容姿も能力も自分では拭いきれない正当な血を回りにさらけ出していた。
そしてやがて、当然だが俺の正体はバレた。

まったく迷惑を通り越して、呪いだ。
自分の血統を、絆を、わずらわしいと思った時点で、もうそれは呪い以外の何物でもない。
実に忌々しい。
・・・もちろん、今も。