彼、神咲悟は東京都出身だったが、高校と卒業する頃、留学することを決めた。

音楽をイギリスのロンドンにある大学で勉強したくて、親の反対を押し切ってロンドンに渡ったという。

彼は医者の一人息子だったが、親の七光りで医者になるということはどうしても選びたくない道だった。


彼はホームステイ先で下宿しながら大学に通うことになった。

そこはとても金持ちの家で、自分の家よりもはるかに大きな屋敷だった。

そしてそこの一人息子だったのが、ラファエル・クラウド(Raphael・Cloud)だった。

同い年でしかも通う大学まで同じだった彼と、悟はすぐに友人となった。


彼、ラファエルは幼い頃から衛生教育を受け、十代ですでにコンサートなどを開いて音楽活動をしている天才だった。

しかし何故か、悟は家の中でクラシックを演奏する彼の姿を一度も見たことがなかった。


「その大学はね、有名なオーケストラのコンサートにも出場するサークルがあることで有名で、私はそれが目当てだったんだ。だけど、彼は違った。」


「父は音楽を学ぶためにその大学に入ったわけではなかったんですか・・・?」


広い寝室のベッドの上で、悟は苦笑して続けた。


「どうだろうね・・・真意は定かではないが、私は彼に聞いたよ。」


父はとにかく興味を持ったものはとことん勉強する人だったらしい。

医学、物理学、理化学、地理学・・・勉学に励むことが彼にとっての遊びのようなものだったのだろう。


音楽に関しても、詳しいどころではなかった。

楽器にしても何でも手をつけて、飽きれば次を探していた。