シュラの名前を出そうか迷ったが、
先日の彼の様子から考えて話していいのかどうか迷ってしまう。


だが彼にはわかってしまった。

社長は少し苦笑すると、また静かに語り始めた。


「君にね、アリス。早く来てほしいと思っていたところなんだ。」


「はい・・・?」


すると少年が顔の隠れるくらいの大きな花瓶を持って戻ってきて、
窓際のテーブルに置いた。


社長はアリスの銀色の瞳から視線をはずし、
日が入る方向へ花の向きを変え、
慣れないように飾って見せようとしている息子を見つめた。


アリスにはその表情が、どことなく生前病室にいた父を思わせた。


「瑠衣、今日は麗と優衣と景には病室に来ないで家に帰っていいと、伝えてくれ。」


少年は手を止めると、静かに振り向き、
はい。と言ってソファに置いていた自分の荷物を取った。

そして、失礼します。と二人に会釈して部屋を出て行った。


彼は本題に入るかのように、再び彼女に視線を向けた。


「あの・・・おじ様・・・。」


アリスは話したいことや聞きたいことなどたくさん頭で並べて、少し混乱していた。

しかし、自分から話そうとしたのは、これから彼の口から聞かされることを無意識に拒否していたのかもしれない。



「アリス」


先にしっかりと言葉を始めたのは彼だった。


アリスは、少し困惑した表情を隠しきれないまま口を閉じた。


社長はいつもの微笑みを浮かべ、寂しそうに言った。


「私はもう長くないらしい。」