そこには読書に勤しむ社長がいた。

少年がアリスにスリッパを出し、彼に声をかけた。


「父さん、クラウドさんがいらっしゃいました。」


すると彼は本を置いて彼女に振り返った。


「おじ様、お邪魔します。お加減どうですか?」


「あぁ、いらっしゃい。今は落ち着いているよ。」


声は明るかったが、彼は以前よりだいぶとやつれていた。


「驚いたろう・・・こんな病室で。こっちへどうぞ?」


「あ、はい。」


白いベッドに歩み寄り、隣の椅子に腰掛けた。


「すまないね、私自身も驚いているが、君たちには大変迷惑をかけている。」


真剣で悲しそうな表情で彼は語り始めた。


「いえ、そんな・・・。
それより早くお元気になってほしいです。
あの・・・病状は・・?」


「あぁ、急性気管支炎らしくてね・・・。」


「気管支炎・・・。」


「まぁ、日ごろから自分の体を気遣うことが疎かになっていたしね・・・。
不摂生にしているつもりはなかったけど。
私の父が同じように亡くなっているから、遺伝だと言われたよ。」


「そう・・・なんですか・・・。」


少しだけ医学を勉強したことがあるアリスは、
彼がすべてを語らずともだいたいのことがわかってしまった。


突然倒れるまで病状が進行してしまっているということは、急性にして悪性。

おそらく癌で、気管支炎から始まっていても、内蔵に転移がある恐れもある。

そして何より、身内が同じように亡くなっているということは・・・。


彼女は表情を曇らせて思わずうつむいた。

すると彼は、おそらく出ずらいだろう声で、精一杯の明るいさを込めて言った。


「綺麗な花をありがとう。」


「あ・・・、はい。・・・飾ってくだされば光栄です。」