父と、母が残した最後の言葉も

自分へ注いでくれた愛情も

私自身をはぐぐんでくれたすべてだった。


ただ、そんな両親から貰った大切な自分を粗末にする生き方をしてしまった時もあった。


それが申し訳なくて、今は全然墓参りに行けていない。


彼女は涙を拭った。


笑え・・・。


必死に心でそう言い聞かせる。

そして一息吸って、ドアに手をかけた。



音なくドアが静かに開き、
アリスは驚いてしまった。

少し歩いて部屋の中へ進むと、そこは唖然としてしまう光景だった。


その部屋は、病室というより、富豪の屋敷のリビングという感じだ。

英国風の電灯にじゅうたん。

透明ガラスのテーブル、そしておしゃれなソファ。

部屋の中心に進むと奥には大きな窓にカーテン。


「・・・・え~・・・?」


ビップルーム・・・?

病院でこんな部屋あるんだ・・・。

というか、おじ様が見当たらない・・・。



広いリビングのような部屋には、見渡してもベッドはない。

しばらくきょろきょろしていると、ガチャと扉が開く音。

振り向くと部屋の端から、少年が彼女を見つめていた。


少年は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに落ち着いて話し始めた。


「もしかして、アリス・クラウドさんですか?」


「あ!はい。あの・・・おじ様、いえ、神咲社長は・・・?」


「はい、先ほどクラウドさんがお見舞いにいらっしゃると承っておりました。
父はこちらの寝室におります。」


「あ・・・はい。ありがとう。お邪魔します。」


アリスはそう言って、一礼し、少年に歩み寄った。

少年は扉を開けて静かに待っている。

彼をよく見つめると、おじ様によく似ていた。


少年は14歳くらいだろうか、社長の息子さんの一人なのだろう。


アリスは招かれるまま寝室に入ると、開放的でシンプルな部屋に、大きなベッドがあった。