アリスも確かにその童話の話は知っていたし、その主人公の少女が自分と同じ名だということも知っていたが、
どう答えればいいのか困ってしまった。

すると受付のナースが戻ってきてしゃがみこんでいたアリスに声をかけた。


「アリス・クラウドさん。
神咲さんは現在検査を終えられて病室におられます。
面会時間は決められていますが、ご本人からアリスさんは会社の方だとお聞きしましたので、
304号室へどうぞ。」


「あ、はい。ありがとうございます。」


アリスの名を聞いた少女はますます興奮した様子でアリスを見つめた。


「やっぱり!!お姉ちゃんアリスなんだ!」


するとそれを見たナースは少女に病室へ戻るよう注意した。

少女は駄々をこねてアリスを引きとめようとしたが、アリスはごめんね、と告げて早足でその場を去った。


耳でナースと少女の声を聞きながら、急いで304号室へ向かった。


病室に向かうまでの間で、アリスは昔の記憶を思い起こした。

真っ白の病院へ見舞いに行った経験は多かった。

父も母も、結局疲労と精神的の病でこの世を去った。

毎日不安を抱えながら病院に通っていた。

日に日に弱ってゆく父や母を見ながら、自分が生きる未来が見えなかった。


「綺麗・・・」


タイルだらけの広い病院内の廊下から、自然一杯の中庭が見えた。


どうしてだろう・・・。


病室の前まできて、アリスは佇んでいた。


なぜか涙が流れていた。


神咲悟の病状への不安や心配のためではない。

「見舞い」ということで病室に訪ねる感覚が、父と母を思い出させた。