そしてどんどん零れ落ちてゆく。
アリスはもう納まったはずの雷が自分の中に駆け抜けた気がした。
息が詰まるような思いを押し殺しながら彼の前へ回り込み、ハンカチで彼の涙を必死に拭った。
彼は依然として動かず凍り付いていた。

アリスはなんだかわからず、とにかく無性に怖くなった。

彼女は自分の瞳にも涙が溢れていることに気づかず、ただただ彼の涙を拭い続けた。
するとシュラは彼女にかまわず、黙ってゆっくり動き出した。
一歩ずつ歩んで、入り口の屋根を抜けて豪雨の中に佇んだ。
アリスは困惑しながらも、慌てて傘を手に取り、彼を追った。
バシャバシャと水をはじきながら近づいて、彼に手を伸ばした瞬間だった。

「来るな。」

彼は鋭く光るその瞳だけを向けて、今まで聴いたこともない低い声で言い放った。
アリスは少し躊躇したが、彼の黒髪がどんどん雨にぬれていくさまを見て動かずにいられなかった。

「風邪引きます!早く傘を・・・!」

シュラの中でもまた、雷が走った。

自分の制止を無視して側に寄ろうとする彼女を見て、頭の中である記憶が溢れた。
湧き上がる恐怖。

「来るな!!」

アリスはびくりと体を震わせて、息を切らしながら鋭くにらみつける彼を呆然と見つめた。

シュラは自分の中で流れ続ける過去の回想を振り切ろうと、とっさにその場から走り去った。
引き止める彼女の声を半分聞いて、追いかけてこないことに安心して・・・。
ただ雨の中を走り続けた。
あの時と同じように。