虚ろな目を天井に向けていた。
ぼやける視界を振り払うように、重い体を起こした。

「ん~・・・・。」

起き上がってみても体も頭も起きてない・・・。
朝は本当に苦手だ。

そんな彼の姿を見て、少年はため息をついた。

「もう!毎朝僕ばっかり朝食作ってるんだよ?!」

赤いエプロン姿の少年は、眉間にしわを寄せベッドに座ったままボーっとしているシュラに大声で言った。

「せめてちゃんと起きてよね!」

彼に歩み寄り、シュラの頬を両手でつねった。
少年は瞬きしかしないそのブルーとグリーンの瞳を覗き込んだ。

質素で片付いた彼の部屋は、かすかに開いていたカーテンからしか光はない。

変だな・・・

寝ぼけた心の中で彼は思った。

ここしばらく夢に見ることはなかったのに。

シンはなかなか目覚めようとしないシュラに罵声を浴びせた。

「Syula!!wake up!!」

少年はクオーターで、ほとんど日本語だ。
シュラは母親が日本人だがこの16年間、一度もイギリスを出て生活したことはない。
一度行って仕事をしてみたいとは思っているが、それなりに忙しくて機会がない。
もちろん日本でも少し曲が知られているので、音楽事務所から誘いがあるという噂は聞いたことがある。

シュラには時々シンが話す日本語がわからなかった。
少年はシュラをにらみつけながら英語で続けた。

「もう!僕もう仕事行くから、食べたらちゃんと始末しておいてよ!」

少年はエプロンをぬいで、怒鳴ってドアを閉めた。

静かな朝に、勢いよくドアが閉まる音は耳が痛い。

「(母親かよお前は・・・。)」

ボタンを全開のパジャマを着たまま、ベッドの布団をてきとうにたたむ。
リビングでは隣の小さなキッチンからコーヒーメーカーの湯気が見えた。
スリッパを履き、丸い椅子に腰掛ける。
テーブルにはきちんと朝食が用意されていた。
半分開いた窓からは穏やかな風が吹いてくる。

彼はポケットに入れっぱなしになっていた、くたびれたタバコの箱を取り出した。
深いため息とともに、煙を吐き出す。
カーテンの揺れと同じようにタバコの煙が舞う。
タバコを銜え、頬杖をつきながらふと思った。