翌日の電車の中、二人は事務所の社長こと、神咲悟について話していた。

事務所関係者もよく知られない彼のことを、一番知っているのはシュラだと誰もが知っていた。
シュラは当たり前のように社長室に通うことがある。
真顔で社長室に入る姿が目撃されたり、ぶつぶつ愚痴りながら扉を開けたとこを目撃されたり、怖い顔でドアを蹴飛ばして入るところは、数人に目撃されていた。

アリスはそんな社長だけに見せる人格があるということを、噂としていろんな人から聞いていた。
そのことをなんとなく聞き出そうとしたら、いつの間にかおじ様の話題になっていた。

「社長は童顔だけどさ、一応結婚してるんだ。」

「え!そうなんですか?私にはそんなこと一言も言ってくれてなかったです。」

「何でも、ピアニストの奥さんは友人の紹介で知り合った人で、美人らしい。結婚したのは10年くらい前だって言ってたな。」

「へえ・・・。でも結構遅い結婚だったんですね。」

10年前・・・。おじ様が30歳くらいの時だよね。お父さんがいたときそんな話してくれたことあったっけ。
してくれてたら絶対覚えてると思うんだけどなぁ・・。

「ああ。社長はめっきり仕事人間だからな、そのときまで結婚に踏み切るタイミングがなかったんだと。結婚する数年前からお互い仕事ばっかりだったらしい。だけど10年前、子供ができたから籍だけ入れたって笑ってた。」

おじ様らしい、とアリスは苦笑した。