「シュラさんのほうがよっぽどすごいです。私はシュラさんにいつも感心してますよ。素晴らしい曲は作れるし、日本語も教えて一ヶ月と少しでほとんどの日常会話ができるようになっちゃうんですから。熱心に教えてる私の立場がないくらいです。」

そう言うと思い出したように腕時計を見て、慌ててシュラの手首を掴んだ。

「電車、もうすぐ来ますよ!」

気づけばもう駅前まで歩いていたのか。
掴まれて小走りでホームに向かった。

彼女の笑顔は今朝とは少し違っていた。
なんだかとても幸せそうで、太陽みたいに明るかった。
俺は眩しい光が苦手だけど、暖かい光があることを知った。
そして、誰かと同じ時間を共有することの意味を知ったような気がした。

少し息切れ気味で電車に二人で乗り込んで、肩で息をしながら車窓を眺めた。
目が合うとなんだかおかしくて、笑った。

これからのことを考えながら過ごした彼女との時間。
俺はもっといろんなことが知りたいと思った。
彼女が感じる気持ちも、自分の想いも。
一生消えない思い出と傷を作ってもいい。
俺には失うものは何もないから。
すべて捨ててここまで来たから。

それは彼女も同じなんだろう、きっと。

まっすぐ窓の外を見て、優しい表情の彼女を見て、そんなことを思った。

何もしなくても足跡は刻まれてゆくなら、どんなに深くてもいい。
痛くてもいい、辛くてもいい。それが生きるって言うことならしかたない。
少なくともまだ死ぬ気はないし、それに・・・
今はもっと
もっと・・・この笑顔を見ていたいような気がする。

ボーっと車窓を眺めていると、何度も自分のブルーとグリーンの瞳と風景が過ぎ去って行く。
俺たちにも終点があるから、歩いていけるのかもしれない。

この気持ちを、なんて呼ぼう・・・