「学校というものに対する君の考えはなんとなくわかったが・・・、何か論点がずれてきていないか?」

「そうだな。でも一応区切りがいいとこまで続きを話しておこうか。俺はふらふら学校をぬけだしては、近所の教会で遊んでいた。」

社長は苦笑した。

「なるほど、やはり君の息抜きの場所は神に近い場所というわけか。」

「そんなんじゃない。」

シュラはむっとしたように返した。

「俺は静かな場所が好きなだけだ。学校の時間では教会はいつも誰もいなかった。忍び込んでも気づかれることはなかったし、暇つぶしにはちょうどいい所だろうと思ったからだ。だいたい、俺は教会だからといってイエスやマリアに一番近い場所とは思はない。神聖な場所とも思えない。」

「また話がずれてきたな。」

社長は呆れ顔で言った。

「あんたがずらすからだ。・・・どの話の続きが聞きたい?」

「君の話したいことの続きをしてくれ。私は話が終わるまで自己主張はしない人間だ。それに私はそんなに暇ではない」

「・・・それ矛盾してないか?話したいことの続きをしろっていうのがすでに自己主張なんじゃ

「わかった。悪かった。」

シュラはため息をついた。

「えっと・・・どこまで話たんだったか・・・。最初はな、日本語ぺらぺらになりたいわけじゃなかった。」

「ん?」

社長はファイルから目を離し、車椅子を彼のほうへ向きなおした。

「・・・口実だったんだ、半分は。」

目の前の透明のガラステーブル。
視線を落とすと自分の顔が映った。シュラはあのときのことを思い出した。
事務所の廊下で、アリスと始めて会話したときのことを。

「確かに話せるようになればいいとは思ってた。でも違和感なく彼女は日本語を話せるとわかったから、俺の努力は要らないだろうと思ったんだ。」

「ふむ・・・」

「だけど、なんというか・・・。関わりたい、と思ったんだ。」

彼はファイルを片手に見つめる男を見た。
社長は微笑を見せた。