アリスは真剣にレコードを見つめて何か考えているシュラの横顔を見ながら、そんな風に考えていた。

彼の美しい瞳は

「シュラさんの音楽に対する信念・・・わかったような気がします。」

アリスはシュラを目の前にしている緊張感が、少し解けたような気がした。
素敵です、と付け加えて微笑んで見せた。

音楽を愛し、深く見つめている。

「私も一緒にレコード探し手伝わせてください。」

彼は彼女を無言で見つめて、すこし間をおいて答えた。

「いや、あんたにはほかに個人的に頼みたいことがあるんだ・・・」

「え・・・?何ですか?」

彼はくくっていた髪をほどいて、改まった表情で言った。

「日本語、教えてほしいんだ。」

それは意外な頼み事だった。
少しアリスはあっけにとられたような顔をしたが、彼は何もないように続けた。

「俺頭悪いから・・・周りのスタッフは英語はなせる奴ばっかりでなかなか慣れないし、忙しくて勉強する暇もなくて。」

アリスは少しずつ胸が熱くなっていくように感じた。

「あんたも俺もいろんな意味で同じ立場の人間だし、どうせならあんたに教えてもらいたい。」

「・・・・・」

「・・・・・」

赤面したまま答えないアリスを見て、彼は気を使うように精一杯の笑顔で優しく言った。

「無理ならいいよ。暇じゃないだろうしな・・・。悪かった。」

「いえ!!全然、私なんかでよければ!」

シュラは驚いて一歩身を引いた。

「・・・そ。」

彼が望む期待にはできるだけ応えたい。
アリスはただそう思った。

シュラはポケットから自分の携帯を取り出した。

「じゃあ、一応俺の番号とアドレス教える。」

「あ、はい!(ヤッター!)」

・・・連絡先を知れたからどうということじゃない。
ただシュラと繋がることができたという証が嬉しいんだ。
だいたい、自分から連絡する勇気なんてさらさらないと思うし、かかってきても取れるかどうか疑問だ。