「え、だって顔色よくないですよ。・・・そういえば、クマまで・・。」

色白の彼には少し目立つ、目の下のクマがひどかった。
やはりここ最近事務所に残り、徹夜で仕事しているのは本当なのだろう。

彼は、口調を変えずに彼女に質問を返した。

「なんで、俺が古いレコード探すように頼んだかわかる?」

黒く年季の入ったレコード盤を見つめながら聞いた。

「え・・・えっと・・・。何故ですか」

彼は棚に敷き詰められたレコードを見回しながら言った。

「日本の言葉でもあるだろう。温故知新・・・古きを知り新しきを知る。それは文化の歴史を表す。」

そのときなんとなく、語る彼の目つきが変わったような気がした。

「当たり前のときの流れの中で、音楽は人とともに何百年も生きてきた生き物だ。そして、人とともに時を生きて、変わり続けてきた。」

彼はそのまっすぐで曇りない瞳で彼女を見つめた。

「音楽は理屈じゃなく、魂の塊。音楽が生きてきた時の流れを理解し、創造する。自分のオリジナリティを加えて・・・。人の手でしか生み出せない、芸術という言葉だけで終わることがない。」

彼は落とすように彼女の銀色の瞳から視線をそらした。

「それが、俺が思う「音楽」の姿。」

彼がこんなに私に話してくれるなんて。
いいえ、そんな事実より・・・。

鳥肌が立った。

彼女はそうして言葉を切った彼に、一気に尊敬の念があふれてきた。
彼があんなにも人の心をひきつける音楽を生み出せるのは、彼の中の音楽の概念が他の人とは桁違いにゆるぎないものだからなのだろう。
やはり血なのだろうか、音楽にかける想いも考え方も他の人には理解しがたい域にあるのかもしれない。
そして彼の音楽はまさに、彼自身の生き様が込められているものばかりだ。
彼はそれを永遠のものにしようと構成して作曲しているんだ。
きっと作り方からして天才を感じさせるのかな。
そしてきっと、彼を知ればもっと彼の曲を、彼の詞やメロディを深く感じ取れるだろう。