なんだかわからず奇妙な違和感にとらわれたアリスは、自分の記憶の中で彼を覚えていないか探した。
どれくらい考えたのか、そのときどれくらいの時間がたったのかは覚えていない。
そうしてまた動揺している時、コツコツと靴音を響かせてその青年が戻ってきた。
彼はサングラスをはずしていた。
戻ってきた彼の顔を見て、アリスは凍りついた。

彼はアリスのヒールを脱がすと、青く腫れている足首にシップを貼り、白い包帯を手馴れた手つきで巻いた。

「一応、応急処置だ。家が近いなら急いで帰って冷やしたほうがいい。歩けないほど痛いなら医者に行けばいいだろう。」

アリスは呆然と彼を見ていた。
そして涙がこぼれていることに気がつかなかった。

「・・・タクシー、拾ってやろうか。」

彼は少し動揺した様子で、立ち上がりながら言った。
アリスは声がでずぼろぼろ涙を流し、静かにその場を離れる彼に釘付けになっていた。
その人は、まぎれもなく
私があこがれ続けた、彼だったのだ。

シュラ。
Syula kid Zail。

私が、ここに来た理由・・・。
心の中で何度も彼の名を刻んだ。
涙を拭うも、なかなか止まらなかった。

こんな出会い方って・・・

曇った空の下、少しずつ太陽の光が戻ってきた。
生ぬるい風が髪をゆらす。

しばらくして戻ってきた彼は、サングラスをかけていた。
気づけばあたりには二人しかいなかった。

どうやら静かだったのは、私の心だけじゃなかったらしい。