エレベーターが1階につき、フロントを抜けるころ、靴擦れした痛みが戻ってきた。
再び重いトランクを引きずって外へ出ると、数10分前との違いに気づいた。
あんなに日差しが強かったのに、太陽の暑さを感じない。
明るさは変わらないのに・・。
空を見上げると、雲が一面にかかり太陽をさえぎっていた。
雲の動きは早く、厚く黒い。

一雨来るのかもしれない。

天気が変わりやすい日本の夏は、ロンドンの年中に似ている。
そういえば、傘は折りたたみしか持っていない。
風が出てきている上に雨が降れば、傘は壊れてしまうかもしれない。

特に用事がない今日、早くホテルを見つけて休みたい。
なるべく早く自分の部屋を見つけたいが、さすがに初日は疲れてしまった。

急に青空が見えなくなった空にため息をついて、とぼとぼ歩いていると、事務所の前の小さな階段があることを忘れていた。

「あ!!」

足の痛みで階段を踏み外した。

つまずく瞬間のスローモーション。
すばやく自分に駆け寄る足音がしたかと思うと、ふわりと抱きとめられた。
その瞬間に淡い香りがしたような気がした。

「あ・・・」

びっくりして恐る恐る、自分より10センチほど背の高い表情を伺った。

「Are you OK?」

口調からして英語を話しなれている外国人。金髪で色白だった。
サングラスをかけていて表情はよくわからない。
だが年は若いのは声でわかった。

青年は唖然としているアリスの体を離した。

「いたっ!」

つまずいた拍子にひねった右足首。
激しい痛みがはしり、思わずしゃがみこんだ。

青年は同じようにしゃがみ、アリスの右肩をもち重心を支え、足の具合を見た。
すると手馴れたようにアリスを抱き起こし、ひょいと体を抱き上げた。

「え・・!わっ!」

抵抗する間もなく抱えあげられ慌ててしがみつく。
青年はかまわずそのまま階段を下りて、近くのベンチに彼女を座らせた。