「それに、思い出す君の記憶では、いつも彼の曲が聞こえていたから。」

いつの日からか、アリスの鼻歌は彼の曲ばかり。

「覚えているさ。」

そう言ってもう一度笑って見せた。

・・・そして面影を重ねてしまっているのかもしれない。

アリスは何か考えたように黙っていた。
社長はその青年の話をした。

「彼、どうもここの女性スタッフとはなじまないみたいでね。君なら同じロンドン出身だし、英語も話せるから」

ああ、そうか。

「うまくいけば、マネージャーに推薦してもいいんだよ。」

「おじ様・・・」

「ん?何だい。」

淡々と話す言葉を切った。

「今もまだ・・・母のことを・・?」

彼の表情が止まった。

「母は待っています・・・きっと。おじ様がお墓に来てくれることを。」

彼は微笑む彼女に何も返すことができない。
うつむいて一言言うことしかできなかった。

「ありがとう・・。」

アリスは何も言わずに一礼し、静かに部屋を後にした。