「あ、・・・アリス。」

彼は思い出したように彼女の背中に声をかけた。

「はい・・・?」

間髪いれずに彼は言った。

「彼、今日ここに来ているよ。」

「え・・・。」

一瞬何のことかわからず、アリスは考えた。
社長はにっこりと笑ってみせた。

アリスは呆然と考えた。
そして、まさかと思った。

「レコーディング中だ。」

薄暗いレコーディング部屋。
厚い防音壁の内側で、マイク台の前でガラスの向こうと話す青年。
ヘッドホンをはずし、ありがとうと一言言って微笑んだ。
左耳に、二つの黒いピアスが光っている。
そして、コツコツと靴音をスタジオに響かせ、サングラスをかけ、外へと出て行った。

「なんで・・・。私、話しましたっけ・・。」

アリスは少し動揺しながら、聞いた。

「話して、くれたことはあったよ。」

彼は4年前、親友の最期の別れの日を思い出した。
父も母も亡くしたアリスと短い会話を交わしたこと・・。
よかったら一緒に日本で暮らさないかとも言ったが、彼女は一人で両親が背負わされた不幸を背負うことを決めた。
そんなときに、暗い顔を消して一生懸命話してくれたのは、その青年ことだった。
自分が憧れていると。
初めて恋をした少女のような笑みで。
母親そっくりの、笑顔で・・。