通りすがるウエイターがジュースのストローを回すアリスに見とれた。
彼女とすれ違う者は皆、一度は彼女の姿に目を向けるだろう。
それほど美しい、母譲りの容姿だった。

アリスはため息をついた。
ジャックは必死に言葉を続けた。

「それに!!お嬢様風の気品がある美人顔に、完璧なモデルスタイル!我が雑誌モデル人気ランクオール1位!!化粧品やヘアメーカーからCMの依頼が殺到してるんですよ!!?」

「大きい声で言わないでよ・・・。」

彼は瞳を潤ませて眼鏡をテーブルにたたきつけながら言った。

「それにこの際だから言いますけど、俺アリスさんのこと好きですし!!辞めてほしくないんです!!」

周りのウエイターがびっくりしてジャックの右手で握りつぶされたジュースのコップを見た。
ストローから勢いよくジュースが出ている。

「・・・あのね、ジャック」

アリスは彼をなだめるように話し始めた。

「実は社長にはもう承諾得てるの。」

「へ・・・?」

彼はつぶらな瞳を向けて唖然とした。

「一年以上前から話してて、契約も今月いっぱいになってるから。」

「そ・・・そんな・・・。」

アリスは再び瞳を潤ませる童顔の彼の手を握った。

「本当に申し訳ないけど、自分の夢のために働いてきたから。」

彼女はそう言ってそっと手を離した。

「・・・わかりました。」

彼は落胆の表情は隠しきれぬものの、テーブルにもたれた体を起こして答えた。

「ごめんね・・・。」

彼女は少し微笑んで、テーブルにこぼれたジュースをハンカチで拭いた。
ジャックは気持ちを落ち着かせると、真顔で言った。

「詮索はしませんが、日本に行っても頑張ってください。アリスさんが自分で決めた夢に、自信を持ってくださいね。」