忍耐とか、向上心とかいうものが自分にあるのなら、私はすべてをフルに使ってきたほうだと思った。

私は、17歳の頃から、本気で恋をしていた。

朝早いロンドンの町並みは意外に静かだ。
ショーウィンドウが並ぶ商店街で、一つの店に大きなスクリーンテレビが飾られていた。
そこで彼の姿が映った。
彼女は思わず足を止め、スクリーンに見入った。
マイクを握り締めて歌う青年の姿を。
自然と笑顔がこぼれ、顔が熱くなる。

不幸なしがらみから開放されたら
普通の女の子に戻って・・・

好きな人の側で働いて、生きてゆきたい。
こつこつとためたお金と、音大卒の資格、日本語を完璧にマスターした暁には・・。
そんな計画を綿密に3年間考えてきた私。

Arice Cloud(アリス・クラウド)二十歳。
イギリスロンドン生まれロンドン育ち。
一流企業の富豪の一人娘として生まれたけど、私が15歳の時、父の会社が倒産し、多額の借金を背負わされた。
両親は、必死に返済に努めたが、母は過労で倒れやがて病死、その後すぐ父まで亡くなってしまった。
親戚とは会ったことがないほど疎遠な人ばかり。
当然身寄りは無く、私はいきなり独りぼっちになってしまった。
だが学校を卒業することと、短大に行くお金は残してくれたので、なんとか一人でやってきた。
だけど人生そんなに甘いものでもなく・・・それ以後はもう・・・。

適当なレストランで朝食を済ませ、待ち合わせのカフェテラスへ向かった。
座ってオレンジジュースを注文し、しばらく待っていると彼女に元気な声がかかった。