社長は相変わらず上機嫌で話を続けている。

シュラは驚いた様子で何度もその書類に書かれている、要請してきた事務所の名前を確認し、自分の記憶とリンクさせた。

「(Music Japan…[SEED RECORD])」

日本の代表的な大手の音楽事務所。
イギリスの大きな事務所とも何度も交流があり、以前シュラがCDを出させてもらったところ。

「(あんな大手が俺を・・・?)」

あそこは有名で最高の人材が集まった事務所。スタッフは名の知れたものばかりか、その者の直属指導を受けた者。
なぜそんな大手が、いまさら自分を必要とする理由がわからない。
だいたい、作曲したものは一切日本に送ったりなどしていないはずだ。

・・・隣でぺらぺら話してるペテン師ならやりかねないが・・・。

「インディーズでのオリコンでだよ?」

振り向いた社長に気づかれないように、さっと書類を机へ戻した。
彼は眼鏡をはずし、シュラに向き直った。
そのグレイの瞳は美しく、黒髪に栄える色。彼もシュラと同じく日本人の血を持つ者だった。

「1ヶ月連続オリコン1位。特別PV収録DVDがランキング5週連続1位。」

シュラは呆然とし、聞く気をなくした話に耳を傾け始めた。

「シュラすごいよねぇ。」

シンはつぶやいた。
シンくんも十分すごいよ、とスタッフの一人が微笑みながら言った。

「だってさぁ、日本の音楽雑誌でも伝説化してて、オリコン制しちゃっててさぁ~・・・。」

まったくメディアに出ないシュラは一度のCDとDVD発売だけで、音楽界に波紋を及ぼしていた。

シンは頬杖をついて誰かと話すように集中することなく、目を閉じて続けた。

「知ってた?あのCDとDVDの売り上げ・・・。」

社長室では沈黙が広がっていた。
シュラは口をあけたまま数秒目を見開いていた。