「シュラくん、ちょっといいかな。」

防音扉を少しだけ開けて、顔見知りのスタッフが彼を呼んでいた。

「・・・?はい。」

彼らは扉の前で少し話して、やがて出て行った。

ドアが閉まると同時にシンは彼が居た場所に顔を上げた。
つぶらな瞳が少し潤む。
白っぽい金髪の少年はシュラより4つ年下。12歳にしては大人っぽい雰囲気があるが、笑えば愛らしい少年。
そんな彼は何年か前に下町でシュラと知り合い、以来兄弟のように気が合い同居している。

なんとなくではあるが、周りは時々二人が似ていると言うことがあった。

「シュラ・・・また朝食食べなかったんだ。」

顔色の悪いシュラの体調管理は自分がしてきたようなつもりなので、一段と気分が悪そうなときは気づくし、もちろん食事を抜いたときはすぐにわかってしまう。
そんなに厚く世話を焼くほど心配しているわけではないし、人の世話を焼くほうでもないシンは、あまりシュラに注意することはない。
かくいう自分も、体調管理は結構ずさんなほうであるからだ。

しかしさすがに・・・と思うときもある。

「もう・・・。」

大勢の中で誰かがシンを呼んだ。
軽くため息をつき、席を立って呼ばれたほうへ向う。

「死んでも知らないから。バカ。」

小声でつぶやいて、そして悪戯っぽく独り言を言った。

「ま、いっか。もう僕がご飯作ることなんてないもんね♪」

機嫌よくにこりと少年は微笑む。
そしてそれは現実になる。

別室、社長室でシュラのとぼけた声が響いた。

「・・・は?」

インテリアにこだわった涼しげな部屋で、彼の目の前の男性は落ち着いた様子で黒猫を抱いている。
シュラは状況を確かめるように言葉を継いだ。

「お・・・俺が、異動ですか・・・?」