あ、しまった。

ラファエルに荷物の整理を手伝ってやるつもりだったのに・・・。

あれから話していないし、謝りたい。


家に入る前、依然の怒鳴り声が聞こえた時のことを思い出した。

ドアを開ける前まではまさに、嵐の前の静けさだった。

半ばドキドキしながら、悟はノブに手をかけて平静を装ってドアを開けた。


「ただいま戻りました。」


「悟さん、お帰りなさいませ。」


いつものように数人の使用人が挨拶をしてくれた。

どうやら、今日も主人と奥様はいないようだ。仕事だろう。


私はラファエルのご両親の仕事をよく知らなかったが、聞こうとも思わなかった。

かなりの富豪で難しい色んな企業を営む実業家らしいし、「表向きの仕事」だったりして・・・やはりラファエルが言うようにあまり良い会社ではないのかもしれないと感じていたからだ。


それにあまり自分自身には関係ない。

下宿させてもらっているのだから、コミュニケーションをとったりしたいものだが、忙しい人に頼んでまで色々話すのも迷惑がられるような気がした。


悟は与えられた広い一部屋で着替えを済ませると、ラファエルの部屋へ向かった。

静かな廊下でノックの音を響かせた。


「はい。どうぞ。」


俺だ、と一言言って部屋へ入った。

部屋は無数のダンボール箱が置いてあった。


「だいぶ片付け進んでいるのか?手伝おうと思って・・・」


彼はガムテープで一箱の蓋をふさぎながら答えた。


「ああ、まぁ三分の一くらいかな・・・。手伝ってくれるなら嬉しい。」


いつもと変わらぬ調子でそう答えてくれたのに安心して、散らばった書物を手に取った。