アイリスはもうそれだけで、切なさを覚えた。


私は・・・あの大勢の中の一人でしかないんだ。


わかっていることだが、どうしてか心はひどく痛んだ。


彼の曲を聞いて、涙が出て・・・心が楽になった。

彼の微笑みを見ればこの世が止まったように思えた。

彼の手に触れたら、彼女の中で恋が始まった。


騒がしい列から離れ、帰路についている間も、アイリスは彼のことが頭から離れなかった。

これが一目惚れというものなのだと、初めて知った。

そして自身の白い手を見つめた。


さっき確かに彼と触れた右手。

とても暖かかった。

彼も冷たそうな白い肌をしていたが、暖かかった。

指は細く白く、本当に美しい手だ。


あ、でもサインは左手で書いていた・・・。

利き手は左なのだろうか・・・左手で握手すればよかったな・・。


彼のCDをボーっと見つめて、周りもろくに見えていなくて。

ぼけっとしない!と母にしかられながら家に帰った。

蛇行しながら、赤面したまま、彼を想い続けていた。



「それは、なんだか可愛いエピソードだね。」


夕日を背に悟は彼女の隣を歩いていた。


「ほんと・・・バカみたいでしょ?こんな子供みたいな話。」


「いや・・・。いいんじゃない?素直で純粋な証拠でしょ?」


彼女は照れ笑いしながら私に問いかけた。