彼の仕事は今や作曲だけではなかった。
不本意ながらミュージシャンとしての仕事も少なくはなかった。
シンがきっかけになって日本でもインディーズシーンとしてCDが出されたらしい。
はたから見れば華々しい芸能人のような職業かもしれない。
だが今までいっさいメディアに出ることを避け続けている。

人に話せるようなことはない・・・。
何度も死にそうにはなったが、こうしてやっとの思いで太陽の下で生きていられる。
はたして誰かの前で自分のことを語れといわれて、いったい何が話せるというんだ。
殺しかけたとか殺されかけたとか、死にかけたとか、死を見たとか
そんな血なまぐさい話しか記憶にはないんだぞ。
そんな話をしてほしいわけではないことくらいは、馬鹿な俺でもわかってる。

誰かが俺に抱く感情や、興味、好奇心なんてすべて幻想だ。
ただそのへんの野良犬と同じ、「何とか生きている」だけだ。
そう、ただ少し情を持った狼ってところだろう。

「・・・なんて、一曲かけそうな言い草だよな。」

彼の独り言に一人のスタッフがはい?と聞きかえす。
苦笑いでそれをあしらい、奥のスタジオ部屋でスタッフと談笑しているシンの元へ向かった。
声をかける前に振り向いたシンは、シュラを見るなり爆笑した。

「アハハハハハハハハ!!」

「・・・・シン、おま」

「マジで似合ってないんだけどグラサン~~~~~~!!!」

童顔の少年は涙を浮かべるほど笑う。
シュラはかまわず要件を続けようとした。

「夕べにか

「ちょーうける!!ちょーーうけるんですけど~~~!!」

バンバンと机をたたきながら笑いが止まらない様子のシン。
シュラからすればさっきからシンは無意識にすべて発しているのは日本語。シュラには何がおかしくて笑っているのかまったくわからない。

「お腹痛い~~・・・。」

少年は肩で息をしながら腹を押さえる。
話にならない、とシュラはサングラスをとって自分の仕事に取り掛かることにした。

すると彼を呼ぶ声がした。