「三宅は野球やってたんだよな?」

「うん。」

「なんだよー野球部に入れよー。」

「はは、今さらだよ。」


キャッチャーの吉田は気が良いやつで、がたいの良いおもしろい友達だ。


「じゃ、行くよー。」

「おう。」


振りかぶって、投げる。



パン!!!


ひさしぶりに聞くキャッチャーミットの渇いた音に、一瞬でさわかな気分になる。


さらに、

「……あいてててて。
久しぶりに思いっきり投げたら肩が………」


左肩を右手につけたグローブごしになでる。


するとそこで、吉田がキャッチャーマスクを外してこっちへ歩いて来るのが見えて。



「あ、いや、たいしたことないから、気にす………」

「お前、ピッチャー。」



ボールをこっちへ押し付けながら言う吉田に、一度思考が止まる。


「……………へ?……いや、キャッチャーなんか僕には……」

「キャッチャーじゃねぇよ。ピッチャー。」

「は?嘘だろ?」

「嘘じゃねぇよ。
左投げだからバッターには嫌な相手なうえに、スピードも悪くない。
お前、ピッチャー。」


あまりのことに呆然としていると、投球待ちだったチームのメンバーも遠くからうなずきながら言う。


「俺もお前がピッチャーでいいと思う。」

「俺も。」

「他には任せらんねぇよな。」


「おーい。」



あまりにも有り得ない展開に呆然としていると、お構いないなしに吉田が話を進める。

「お前、球種は他に何が投げれる?」

「へ?えっと、でも小学生以来だからカーブしか……」

「じゃあ俺が教えるからせめてフォークは覚えろ。」

「いや、覚えろって言ったって……」

「絶対勝つぞー!!!!!」

『おおおおおお!!!!!』

「おーい。」




明らかに取り残された状況に戸惑いながらも、僕は少し張り切った気持ちと、焦りと絶望で、自分でもよくわからない笑顔を浮かべた。