その日も何事もなく一日が過ぎた。


眠たいだけの授業をぼんやりと過ごし、ずっとシナリオノートを机の上に広げていたのだが……




「………だあああ、わかんねー!!」

「うわっ、びっくりした。」



今日も約束どおり、パソコン室に宮田さんはやって来た。

僕の隣の席に座ったかと思うと、慣れた手つきでキーボードをすばやく打っていく。


だけど僕の画面は、まったく変化がなかった。


打ち込んではデリート。
打ち込んではデリート。



ついに机に突っ伏した僕に、宮田さんが肩を突きながら声をかける。


「えっと、どうしたの?」

「………シナリオが進まない。」

「ああ、純愛のシナリオだっけ?」

「うん。純愛。」


がばっと起き上がって、それにびくつく宮田さんを無視し、コロコロと動く安定感のないいすの上に体操座りをする。


「あのさ。」

「え?うん。」

「僕はさ、」

「うん。」

「恋とかしたことないんだよね。」

「え?」



突然の僕の言葉に、宮田さんは驚いたように目を見開く。


僕は宮田さんから視線を外し、足を下ろしてパソコンへと近寄ると、『素材』のフォルダを開く。


いくつかの桜や海の写真を見ながら、静かに話した。



「だからね、恋とかしたことない僕にさ、純愛のシナリオなんて書けるわけないのかなーって。」

「……なるほどね。」

「別に女子が嫌いとかそういうわけじゃないんだよ。

いや、まあギャルっぽい人たちは苦手だけどさ。」

「うんうん。」

「ただなんとなーく、今までそういう気にならなかったっていうか。

興味がないって言ったら嘘になるけど、でもだれかを好きになることはなかったんだよね。」

「うーん。」


僕の言葉に相槌を打ったりしながら、宮田さんは僕の顔をじっと見ていた。

黙り込んだかと思うと、横目で宮田さんを見てみるとまだ真っすぐに僕を見ていた。



「………………なに?」

「え?ああ、三宅くんがどうして恋をしないのか考えてたの。」

「……………宮田さんは恋愛とかしてるの?」

「…………え?」

「だからさ、自分はどうなの?」


さっきまで険しい顔で僕を見つめていた宮田さんが、いまはほうけた顔できょとんとしている。

ただ黙って宮田さんの返事を待ってると、



「……………ない。」

「え?」

「私も、恋愛したことない。」

「おーい。」


まるでいま自覚したかのように焦りだす宮田さんに、思わず吹き出す。