「ほんとに近いんだ。
僕さ、よく中野の家で遊ぶんだよ。」

「ふふ、うん、知ってる。」

「はあ?あいつどんだけ僕の話してんだよ。」

「あはは!それだけ三宅くんのこと大好きなんだよ。」

「うぇ〜きもいこと言わないで。」

「あはははは!ごめんごめん。」



僕が自転車のカゴに入れさせていたリュックを取り出すと、宮田さんはまた愛想の良い笑顔を浮かべる。


「今日はわざわざ送ってくれてありがと。
すごく楽しかった。」

「いやいや、こちらこそ。
中野も言ってたんだけどさ、今度いっしょに3人で遊ぼう。」


僕の言葉に、宮田さんは少しいたずらっぽい顔で笑う。


「お、いいね〜。
楽しみにしてる。」

「うん。じゃあ、僕帰るから。」

「ほんとにありがとね。また明日〜。」

「ばいばい。」


僕が手を振って自転車にまたがると、宮田さんも手を振って家の前にある小さな門へと駆ける。



僕はその背中をもう一度横目で見て、自転車のペダルをこぎ出して、心地よい風に顔をゆるめた。




中野の家から僕の家までは自転車で20分くらい。


学校から中野の家までは自転車で10分くらい。


中野の家からは学校は近いはずなのに、あいつは毎日朝練があるのに寝坊ばっかりするもんだから、自転車で通学している。

入学したばかりで中野がレギュラー入りする前の朝練がなかったころは、よく僕があいつの家に毎朝迎えに行った。


チャイムを鳴らすといつも中野のお母さんが出てきて、

『毎日ごめんなさいね〜。
さっきやっと起きたもんだから。』

とか言ってる後ろでばたばたと廊下を走るあいつの足音が聞こえてくる。



やっと出てきても手に食パンを持って、寝癖でぐしゃぐしゃの頭をかきながら僕の自転車の後ろに座る。

『毎日悪いなー。』

とか言いながら自転車をこぐ僕の後ろで、ぼーっと食パンを食べながらくだらない昨日見た夢の話かなんかをして朝から僕を笑わせるのだ。



そんな毎日を思い出しながら、僕はまた笑いそうになる。


それからさっきの宮田さんを思い出して、小学生のあいつを毎朝起こしに行く宮田さんの姿が思い浮かんで、思わず吹き出した。