何かをしたい訳ではない。

これといった夢も無い。

でも東京にさえ行けば何とかなると思った。

事実東京は刺激的だった。田舎には無いもの全てがそこには存在した。

友人達と一通りの遊びは繰り返したが、それでも母親に資金を出して貰っている以上、授業だけは真面目に出席した。

その後も何度か紗耶香を見かける事はあったが彼女は何時も一人で本を読むか、キャンパスの風景を漠然と眺めていた。

彼女に対する気持ちは尚人が都会に憧れていたのと同じような物で、恋愛感情は無いものの、紗耶香と話をしてみたい…という欲求は募るばかりである。

五月の連休も過ぎたある日の午後、野球部の練習を所在無く眺めている紗耶香を見かけた尚人は思い切って声をかけた。