紗耶香は尚人の方を振り返りもせずに中ごろのボックス席に腰を下ろす。

『三浦じゃねえか久しぶりだな。珍しく男連れかよ』

向かいに座った尚人の肩越しに長髪をあみこんだ男が声をかけた。

二の腕辺りに揺らめく炎のようなタトゥーが顔を出し、田舎者の尚人をぎょっとさせる。

『フフフッ、そうよ。可愛いでしょ』

そう言って屈託無く笑う紗耶香は校内とは別人に見えた。

『三浦も2年生だろ?もしかして就職とかするの?』

『どうしよっかな…3年に編入するかもしれないし、田舎に帰るかもしれない。でもとりあえず卒業したら東京には残らない』

『どうして?』

以外な返事に尚人は思わず言葉を出した。

『あんたには関係ないでしょ』

『おい、彼氏に冷たいなあ。兄ちゃん、三浦は絵本作家になりたいんだってよ。だから帰るんじゃないか』