その時、私の後頭部辺りから響いた、低いけどよく通る声。
「俺の女に何やってんの?」
声のした場所からして、私のすぐ後ろ。
頭の上から聞こえた声は、その人の背の高さを強調していた。
「何って……ただ案内してもらってただけだけど。もうイイや」
掴まれていた私の腕は解放され、それと同時に安堵の溜め息が出た。
「あ、あの、ありがとうございました!」
私は後ろを振り返り、助けてくれた人に頭を下げた。
「もしかしたら助けない方が良かったのかなぁって思ったけど、校内でナンパなんてされたら、俺の面子が立たないしな」
その人はそう言って、私の頭をポンポンと撫でた。
面子?
校内で私がナンパされる事と、この人の面子に、何の関係があるんだろ?
顔を上げてその人を見ると、見た事のない人だった。
スーツを着た二十代くらいの人。
もし一度でも見た事があるのなら、絶対に忘れないだろうと思う程の美形。
髪は黒くスッキリしているものの、オシャレに毛先は遊ばれていた。
笑った顔もいやらしさが無く、大人びた表情の中にも、少年ぽさを滲ませていた。
一言で言うと、タイプだった。