それは、雪の降る夜だった。

「ただいまー」
そういっても応答はない。
これは、いつものことだ。

香椎蒼(かしい あおい)は受験真っ只中だ。
今は12月。皆本気モードになるころだ。

塾から帰ってくると、もう11時半を回っていた。

「今日は補習もあったし、しょうがないか」
蒼はため息をつき、冷めた夕飯を食べお風呂に入った。
体中が冷え切ってるからいつもの体温でもとてもお湯が熱く感じる。

お風呂につかると、ほっとするがそれと同時に自分が今していることが馬鹿らしくなる。

《今、なんで私こんなにつらい思いしないといけないんだろ。バカみたい。公立入試3月だし・・・あと4か月も毎日勉強勉強勉強・・・・》

そう思ってくるとだんだん涙が出てきた。

―――悔しい。
こんなこと考えてしまう自分が一番馬鹿だ。
今全国の受験生はみんな頑張って勉強してるのに自分だけつらいとかそういうこと考えるのは心が弱い証拠じゃないか。

蒼は風呂から上がって部屋に戻ると真っ先にベットに横になった。
《・・・眠れない。》
そばにあったケータイと音楽プレーヤーに手を伸ばそうとして、止めた。
《明日学校だろ・・・夜更かししたら朝頭が回らない・・・》
甘い誘惑に打ち勝ったものの、やっぱり眠れない。

その日は、無理やり目をつぶって寝た。