「なーんてね。言うわけないじゃん」


 と言われた。やはり沙織に気付かれてたわけで、それはショックだけど、母や父に告げ口はしないようなので、まずはホッとした。ところが、


「でも、お母さんにはばれちゃうよ。てか、もうばれてるかも」

 と言った。


「な、なんでよ?」


「だってお姉ちゃんの唇、腫れてるもん」


「うそ!?」


 私は咄嗟に手で口を覆った。確かに、唇が熱を帯びてる気がした。


「どうしよう。これからお父さんと会うのに……」


「それは大丈夫じゃない? お父さんはたぶん気付かないよ。その程度の変化には」


「ああ、それもそうね」


 私もそう思った。なにせ父は、前に私が髪を真っ黒に染めた時でさえ、『黒っぽく見える』って言った人だもの。