意識しなければ気にせずにいられそうな、細い線。

僕は母のこの細い傷を見るたびに、いつも自分は人を愛してはいけないと思い返す。

仏壇に飾られている父の遺影を見る。にこやかに、僕に微笑みかける父。

父が死んだ後、母は自殺を図った。

手首を切った。

母は僕と同じ人間、人の別れ日が見える人だ。

父の別れ日を見、何もできず死なせてしまったことをひどく後悔して、自殺を図ったそうだ。

祖母から聞いた話だ。

その時の傷は母にだけでなく、僕の心にも一つの戒めとして残った。