「……?」

じっと見つめる僕の顔を、朱里さんは不思議そうに見つめ返す。

黒目がちな大きな瞳。

意思の強さを表すような眉。

柔らかそうな、桜色の唇。

写真で見た背中まである黒い髪は、染めたのか金に近い茶色になっている。

その髪の色は、クルクルと表情を変える朱里さんにとても似合っていた。


「朱里さん……」

「なっ、なんでしょう?何か付いてますか?」

ペタペタと自分の顔を確かめる朱里さん。

そんな仕草がまた可愛い。

「いえ。何も。……ただ……」

「ただ?」

「ただ……あまりにも可愛いので、キスしてもいいですか?」

「…――!」




バッチーン!





静かな部屋に響き渡る乾いた音。

縁日の金魚みたいに、口をパクパクさせる朱里さん。
そんな顔を見ていたら、急に恥ずかしくなってしまった。

「あ、いや、その…」


僕、そんなこと言うタイプじゃなかったんだけどな…

どっちかって言うと、奥手で、好きになるのも時間がかかるし、ましてキスなんて!

どれだけ時間がかかるか……

それなのに、出会って間もない朱里さんにとんでもないことを言っちゃった!