「あ…朱里さん…?」


うなだれる朱里さんに声をかけると、


「もう!大変だったんだから!」


パッと顔をあげ、僕を睨み付けた。

睨むその目にはうっすらと涙が滲んでる。


「あんな雨の中、傘も差さないでずぶ濡れで!そんで、"見つけた"とか"魔法使いの弟子"とか言って、花差し出して!…それで…」


それからずっと、僕が寝ている間のことを話してくれた。

ここまで連れてきたこと、玄関で倒れたこと、びしょ濡れの服を着替えさせてくれたこと…

クルクルと表情を変えながら話す朱里さんがとても可愛くて、迷惑をかけたことも忘れて笑ってしまった。

「――何笑ってるんですか!もう!着替えさせるの、スッゴイ恥ずかしかったんですよ!会ったばかりの人だし!…それに……すごく心配しました……」

「心配したって……僕のことを……?会ったばかりなのに……?」




僕を心配する人なんて、もうこの世界にはいないと思っていた。

僕は一人で、いつも一人で…

病気になっても、怪我をしても…もしいなくなったとしても、僕のことを心配する人なんていないと思ってた。

心配して、涙まで見せてくれる人なんて誰も…




何だか、嬉しいな…


誰かが心配してくれるのって…

久しぶりだな。こんな気持ち…





僕は知らない間にまた笑っていたみたいだ。

朱里さんの鋭い視線が僕を刺す。


「笑い事じゃありません!!」

「…す、すいません……」


朱里さんの怒った顔、結構怖いなー。

泣いたり、怒ったり、心配したり…

他にどんな顔、するんだろう…?

知りたい。朱里さんのことをもっと…