「…そういえば、生き残りさんはどうしたんスかね」


瀬々の呟きに、アーネストは隣の席を見遣る。
相席してからほどなくして泰牙は席を外し、数十分ほど経ったが未だに席に戻ってきていなかった。


「泰牙なら心配しなくてもいいよ。いずれ戻ってくるだろうし」

「ならいいんスけど…」


瀬々は納得しつつも、何か言いたげな表情を浮かべていた。
恐らく泰牙が一人で行動していることを危惧しているのだろう。
オルディネに身を寄せ、単独でいた時に比べれば危険に晒されることはなくなったが、それでもまだ安全とは言い難い。
アヴィドがその気になれば、追い詰めることなど容易に出来るだろう。
そうなれば明らかに戦力差があるオルディネが太刀打ち出来るはずもない。
情報屋である瀬々も、それが分かっているから気に掛けているのだろう。

――尤も、それは泰牙自身が
――誰より自覚している事。
――彼の性格からして
――余程のことがない限り
――迂闊な行動を取ることはないだろう。


「それでも、もっと頼ればいいのに」

「え――」

「お待たせー!」


問い掛ける間もなく、泰牙が二人に声を掛けながら席へと戻ってきた。


「遅くなってごめんね。うわー!美味しそうな料理!もしかして待たせちゃった?」

「気にすることはないよ。この料理はほとんど瀬々くんのさ」


気遣う言葉を掛けながら泰牙を見上げれば、アーネストはふいに目を細める。


「どうやら……もう決めたようだね」

「あれ、分かっちゃった?本当、君は鋭いよね」

「お互い様さ。もう行くのかい?」

「そうだね。でも一人で行くのは心細いんだ。君には悪いけど、ちょい付き合ってくれるかな」

「構わないよ。私も用があるからね」


頷きながら応えると、アーネストは席を立って瀬々へ向き直る。


「では私達は失礼するよ。相席してくれたのに悪いね」

「別にいいッスよ。なんとなく察しはついてるんで」


気にする様子もなく、変わらず料理を口に運んでいる瀬々。
至って冷静な反応に、アーネストは笑みを浮かべる。


「感謝するよ。代金は湊志に言ってくれればいいから」

「了解ッス。こちらこそありがとうございました」

「ではまた」


そう言って、アーネストが背を向けかけた瞬間。


「あ、そうだ。とりあえず、結果がどうあれ連絡待ってますんで。今後もどうぞ、ご贔屓に」


その言葉に瀬々に視線を戻せば、彼は悪戯な笑みを浮かべていた。
その様子にアーネストは愉しげに笑い、泰牙と共に店の奥へと歩き出した。


「あの子って、意外とちゃっかりしてるんだね」


姿が見えなくなったところで、泰牙はそう呟く。


「曲がりなりにも情報屋だからね。こういう事には抜け目はないさ」

「なるほどねー。やっぱ今の子って侮れないね」

「そうだね」


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