手帳を見ながら、瀬々は溜め息を零す。
「何たってあちらさんは一向に姿見せないしね。まぁ命が狙われてるんじゃ仕方ないんスけど」
「ね、狙われてる……?」
昶が顔を青くしながら呟く。
「異能者には拉致や人身売買の問題が未だありやすからね。命を狙われる事だって、なにもそんなに珍しい事じゃないんスよ」
「でも彼の場合は少し事情が違うわ」
隣に座る朔姫が答える。
「その通りッス。彼、柳泰牙はチーム・スフォルトゥナの最後の生き残りにして、トラディメント・ドメニカの重要参考人ッスからね。異例中の異例ッスよ」
「……思ったんだけど、トラディなんちゃらって何なの?」
何気なく尋ねてみたあかねだったが、瀬々から途端に笑みが消える。
「裏切りの日曜日。通称“トラディメント・ドメニカ”。柳泰牙が所属していたチーム・スフォルトゥナと当時無名だったチーム・アヴィドとの間に起きた最も新しい惨劇ッス。山川さんはジョエルさん辺りから聞いたことあるんじゃないんスかね?」
「ええ。領土抗争が大きくなって、スフォルトゥナの所属者が皆殺しにされたと聞いたけど……」
朔姫は口ごもる。
「……私は領土抗争だけで、そこまで悲惨なことになるのは、正直言って可笑しいと思うわ」
言葉に出さないが、その意見に同意だった。
当事者でもなく更には又聞きなので、正確な事は分からない。
だが領土を巡って争うならまだ一理あるが、殺し合うにはあまりに理由が不自然で疑問が残る。
その証拠として、未だに最後の生き残りである泰牙が狙われているのだ。
領土などとそんなものは建て前で、実際はもっと違う事実があったのではと。
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