一階に降りてやや長い廊下を歩いていると、先を歩いていた棗が不意に振り返る。


「何?」

「いや……その…」


口ごもる棗に、思わず首を傾げる。


「どうかした?」

「……似合ってるじゃねぇか。制服」


照れくさそうに言われた言葉に、あかねは目を丸くして自分の服装を見た。


「そう?大して変わらなく無い?」

「色が違うだろ」

「それはそうだけど」


中学の制服は襟とスカートが紺だったが、今回は黒にピンクの線が入った可愛らしいデザインで、この高校を受験した理由の一つでもあり、あかねも気に入っていた。


「お前が着るには勿体無いな」

「酷っ」

「冗談だ」


軽く笑う兄を見て、ふと楓と話した事を振り返り思った事を聞こうとした。


「ねぇ兄貴」

「あ?」

「兄貴はこの家好き?」

「何だいきなり」


怪訝な表情をしている棗に構わず、玄関で革靴を履く。


「別に。ただ聞きたくなっただけ」

「…………」


思案する棗は、あかねを見ながら答える。


「……そうだな。嫌いか好きかと言われれば微妙なところだ」

「微妙?」

「そんな事思ったことなんてねーからな。ただここにいるのが当たり前だと思ってたし」


――当たり前。確かにそっか。

長男である棗は、この家にとっては必要な人間である。
少なくともあかねを含めた他兄弟達に比べればの話だが。

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