「言いなりか……」


確かに母は世話焼きな上に教育に関して厳しい。
しかしそれは伝統があり名家と呼ばれる家に生まれた以上は、仕方ない事である。
けれどまだ幼い楓にとっては、それが煩わしい事であるのも、あかねは十分理解していた。


「気持ちは分かるけど、母さんも楓の事を思って言ってるんだよ」

「そうなのかな…………うぅ。お姉ちゃんは嫌じゃないの?お母さんの言いなりって」

「私は――」


正直言って分からない。が本音だった。
他の兄弟に比べて好き勝手にやらせてもらっているからだ。
習い事も勉強も作法もありとあらゆるものを押し付けられていた兄弟達。
だがあかねには、強制的にやらされたものなど無かった。
嫌だと言えば母は絶対やらせず、やりたい事はとことんやらせてもらっていた。
そんな異質な環境を一部の兄弟から妬まれたりもしたが、今振り返れば母のその態度はどこか腫れ物に触るような感覚だったとあかねは思う。

――寮の事を言った時、一応反対はされたけど
――私が頑なにすればすぐに承諾してくれた。
――まるで面倒事に関わりたくないとでも
――言わんばかりだった。


「どうなんだろうね…」

「お姉ちゃんもあやふやなのね」


楓の言葉に苦笑する。


「お姉ちゃんは何で寮生活にしたの?」

「んーとね…」


思わず口ごもりそうになりながら、必死に言葉を探す。


「ちょっと遠いけど、家からでも通えるってお兄ちゃん言ってた」

「そうだけど、一度くらい寮生活もしてみたいって思ったの」


やや歯切れの悪い言い訳をしてみるが、楓は目を逸らさずあかねをじっと見つめる。


「……やっぱりお母さんが言ってた話が原因?」


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