東京都 桜空邸



吉祥寺にある豪邸とも取れる一軒家。
その一室には朝日が差し込み、静かで穏やかな朝を迎えるはずだった。


「ささっと支度しろ!何時だと思ってんだ!」


起床の時間を過ぎてもなお、自室のベットでうつ伏せのままの彼女に、上から怒声が浴びせられる。


「兄貴……うるさいよ。早く起きたくないから自分で行くって言ったのに、母さんに日にち教えやがって」

「当たり前だろうが。子供の入学式を見に行かねー親なんていねーよ。分かったら支度しろ。本当に遅刻するぞ」

「………」

「あかね!!」

「…お姉ちゃん。お兄ちゃんの言う通り遅刻しちゃうよ」


第三者の声が聞こえて起き上がると、そこには可愛い妹の姿があった。


「おはようお姉ちゃん」

「おはよう。楓も起きてたんだ」


姉の傍に寄り添う末妹――楓(カエデ)はその言葉に苦笑する。


「お兄ちゃんがあれだけ怒鳴ってれば、嫌でも起きるよ」

「だってさ兄貴」

「……いつまでも起きないお前が悪い」


あかねがニヤリと笑えば、顔を背ける長兄――棗(ナツメ)。
口うるさい兄だけなら、ギリギリまで無視し続けようと思っていたあかねだが、可愛い妹を起こしてしまっては申し訳なく、立ち上がって写真撮影以来、未だ着ていない高校の制服を手に取った。


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