「何故だと思う?」

「………」


ただ聞くだけでは、答えを得られないと。
朔姫は記憶にあるあかねの姿を思い出す。
自分と同年の少女。
小柄と言われる私よりも小さいのに堂々としている。
異能者として生きた事が無かったからか、はたまた何も知らないからなのか、どこか眩しく感じられる。
そして彼女のチャームポイントであろう透き通った青い瞳は、不思議と逸らす事が出来ない。


「答えは簡単だ。君も感じている彼女の魅力だ。頂点に立つものは皆を導き、支えられてこそ君臨するもの。その為には、そこに芽生えるであろう信頼関係が不可欠」

「彼女なら……それが出来ると?」

「ああ」


ジョエルは確信しているかのように頷く。
だが会って間もない人間に対し、どうしてそこまで思えるのだろうか。
彼は桜空あかねに対して、また違った想いを抱いてるのではないかと朔姫は勘繰る。


「ジョエルさんは……桜空さんの事をよく知ってるんですね」


悟られないよう言葉を選んで聞いてみれば、ジョエルは思いの他、すんなりと答えた。


「今も昔も見てきたからな。お嬢さんの事は知っている。誰よりも…な」

「誰よりも?」


意味が分からず、更に疑問を口にするが、ジョエルはそれに答える事はなかった。


「無駄話はここまでだ。さて、鍛錬を再開するぞ」

「……はい」



朔姫は再びナイフを手に取り、構え始める。
今は目の前の事だけに集中しようと、朔姫は心を決める。
こうして静かな夜は更けていくのであった。


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